日本人が海外留学に行かなくなったということが問題視されるようになって久しいです。このため、日本政府は学生の海外留学を推進してきました。そのための返済不要な奨学金も高校生や大学については設立してきました。
この留学の気運は徐々に中学生にも及びつつあります。実際に、様々な留学エージェント会社は中学生向けの留学プログラムを多数提供しています。少子化が進む中で、子供の教育費を増やす家庭もありますので、中学留学は今後も増えていきそうです。
では、中学生の留学にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。それがこの記事の内容です。最初にデメリットないし注意点を、次にメリットを説明します。
中学生の留学のデメリットや注意点
ネット上では、留学を推進する立場の方々が多いせいか、デメリットないし注意点の紹介が少なめです。しかし、留学はそれなりにお金がかかりますので、デメリットや注意点についてもしっかり知っておきたいものです。
そのため、この記事では、他のサイトではあまり説明されてこなかったデメリットや注意点も説明します。もちろん、定番として知られるデメリット等も紹介します。
1,高額な費用がかかりやすい
おそらく最大のデメリットは費用が高いことでしょう。留学先の場所や期間にもよりますが、国内での学習と比べれば明らかに費用がかかります。子供を留学に行かせたいけど難しい最大の理由はこれでしょう。
2,中学生留学の奨学金制度が比較的少ない
日本では、高校生や大学生の奨学金は比較的多くあります。これらに比べれば、中学生向けのものは少ないです。
今後、国などが中学生の留学に本腰を入れれば、奨学金も新設されるかもしれません。ただし、その場合でも、奨学金は留学費用の一部しか賄えない可能性があります。一般的に、日本の奨学金は学費の一部だけを賄える程度の金額だからです。
それでも、返済不要な奨学金が得られれば、留学費用という問題を軽減できるのはたしかです。そのため、中学生の留学で使える返済不要な奨学金のリストを、この記事の後半で紹介します。
3, 言語の壁にぶつかるかもしれない
これはデメリットというより注意点というべきかもしれません。多くの留学では、目的の一つは外国語(特に英語)の学習でしょう。そのため、言葉の壁にぶつかりにいくわけですから、当然これにぶつかります。
学生によっては、さほど難なくこの壁をのぼることができるでしょう。しかし、語学が不得意な学生の場合、この壁にかなり苦しめられる可能性があります。現地の友達とのコミュニケーションが億劫になり、外出頻度が減るかもしれません。
外向的だったのが内向的になる可能性もあります(それがだめなことかは議論の余地がありますが)。言語の壁にぶつかることで、様々な問題が生じうることは考慮に入れておきましょう。
4,日本語の能力を伸ばすのに問題が生じるかもしれない
中学生はまだまだ日本語の能力を伸ばしていく時期です。たとえば、新しい漢字を覚えている最中です。日本語での読解力や論理的思考力を伸ばす時期でもあります。
留学に行く間は、外国語の習得に多くの時間と労力を使います。その分、日本語を伸ばす時間も労力も減ります。よって、日本語の能力を伸ばすのに苦労するでしょう。
海外在住の日本人の多くのこどもたち(学生)は現地の学校に通いながら、日本語の補習校にも通います。そのようにして、外国語と日本語の能力を育てています。そのようなケアをしなければ、大人になっても漢字があまり読めないなどの問題が生じます。
中学生は言語能力の基礎的な部分を育てている最中ですので、留学中でも、日本語能力の成長にもそれなりに注意しなければなりません。
ただし、短期留学なら、この問題はたいして深刻にはならないでしょう。長期留学なら、日本語の補習校の利用なども考慮に入れましょう。
5,カルチャーショックを受けて適応できないかもしれない
留学先は日本と環境が異なります。その結果、カルチャーショックが生じるでしょう。それはメリットもうみますが、デメリットをうむかもしれません。
新しい環境に適応できなければ、留学先での活動はそれだけ消極的になります。もっとも、これは1か0かの問題ではありません。どの程度、適応でき、あるいは適応できないかの問題です。
子どもたちが必ずしも十分に適応できるとは限らないということを考慮にいれておきましょう。
これに対処するには、そのためのサポートをしてくれるような環境を準備できるとよいでしょう。そのような環境とは、たとえば、こういった問題に精通したスタッフのいる学校や留学プログラムを選ぶことです。
6,ホームシックになる可能性がある
環境の違いや、親しんだ家族・友人と離れることで、ホームシックになるかもしれません。これを無事に乗り越えてくれればよいです。しかし、精神的危機になるようなら、留学を中止して、帰国させることになる可能性もあります。
せっかく留学に送り出したなら、子供には親の助けを借りずに留学を成功させてほしいと思うでしょう。とはいえ、留学が失敗するよりは、親が多少手助けしたほうがよいでしょう。とくに、中学生は言語やコミュニケーション能力が高校生や大学生よりも未発達ですので。
7,差別を受けて深く傷つく可能性がある
これもデメリットというよりは注意点でしょう。日本人はアジア人として差別対象になりえます。私達は欧米人からは中国人や韓国人と見分けがつかないこともしばしばです。日本人としては、あるいは、ほかの外国人と間違われて差別を受けるということもあります。
これもよい経験といえばよい経験といえるでしょう。とはいえ、中学生という多感な時期の場合、深い傷として残ってしまう場合もあるでしょう。思春期でもありますので、気になる異性から人種差別敵態度をとられると、響くかもしれません。
8,留学先によっては、治安のリスクがある
日本は世界的にも治安がよい国です。留学先は治安の面では同等かそれ以下です。治安が日本と大差なくても、アメリカのように市民が銃をもっていれば、リスクは増えます。
対処法としては、やはり中学生ですので、治安のよい場所を選びましょう。
9,学校制度の違いにより問題が生じるかもしれない
日本の学校制度と留学先のそれが異なることはよくあります。たとえば、日本と留学先の国では、学期の始まりと終わりの時期が異なるかもしれません。そのため、もし日本の中学3年生が9月から1年間留学に行った場合、形式的には中学を卒業していないことになる可能性もあります。
その後に高校を卒業すればたいした問題にはならないでしょうが、こういった不具合が起こり得ます。ほかにも、9月の留学開始までの期間を待たなければならないこともあります。
ただし、国によっては、入学期間が年に2−3回あるような場合もあります。あるいは、短期留学であれば、これは大きな問題にはならないでしょう。
10,短期留学の場合、留学がほぼ(語学)学校の勉強に終始する可能性がある
留学にいく目的の一つは、海外生活の体験にあるでしょう。できればいろんな場所を見て回り、日本では体験できないことも体験してほしいものです。
しかし、短期留学で語学などを学校で学ぶ場合、大部分の時間を学校での勉強に費やすことになるかもしれません。授業後は疲れてしまい、他のことができない。その繰り返しのまま、帰国になるかもしれません。
対処法としては、留学前にスケジュールをよく確認しておきましょう。留学先でやることの優先度を決め、希望にかなうようなスケジュールにしましょう。
11,逆カルチャーショックを受ける可能性がある
中学から海外に長期留学して、現地に無事に適応し、優れた学生に成長したとしましょう。その結果として生じうるのが、日本に戻ったときの逆カルチャーショックです。
たとえば、大学から日本に戻ったとしましょう。日本人大学生は欧米の大学生より精神的に幼いとよくいわれます。日本人大学生が子供っぽく思えて、大学で新しい友達をつくるのに苦戦する。日本の会社の雰囲気や慣習に馴染めない。長期の留学がこういった問題をもたらす可能性もあります。
とはいえ、子供が将来的に日本に定住しなくてもよいのなら、大きな問題ではないでしょう。
12,留学先の国が気に入ったとしても、住み続けることができないかもしれない
これも中学からの長期留学が成功した場合の話です。その国が気に入って、大学卒業後もそこで就職したいと考えるかもしれません。そのためには、就労ビザなどを取得する必要があります。
就労ビザのとりやすさは国によって違います。先進国では、外国人の就労は厳しく制限される傾向にあります。留学先の国が就労ビザ等を発給しないなら、卒業後に帰国するしかありません。
中学生の留学のメリット
ここまで、たくさんのデメリットや注意点を紹介してきました。ここまで読んで、やっぱり中学の留学はやめようかと思った方もいるでしょう。
しかし、決めるのはまだ早いです。デメリットだけでなく、メリットもしっかりと知ってから、決めましょう。
それらのデメリットにもかかわらず、留学は世界中で推奨されてきました。中学生のような早い年齢での留学も先進国ではしばしば推進されています。そこで、次にそのメリットを紹介します。
1,より広い視野で物事を考えることができるようになるなど、人間として大きく成長するチャンス
日本では、外国人と日常的に交流をもち、彼らの考えを知る機会がまだまだ少ないのが現状です。一部の都市圏であればそのような機会が得やすいですが、これは日本全体でみれば例外的です。
留学では、異なる考えの人たちと、日本とは異なる環境で接します。新しい考えや文化にふれることになり、大きな刺激を得るでしょう。様々な考えを具体的に知り、様々な体験を伴うことで、視野を広げることができるでしょう。
ここで、中学生という時期が重要です。日本の文科省は、中学生という発達の段階の特徴として、高説明しています。
「中学生になるこの時期は、思春期に入り、 親や友達と異なる自分独自の内面の世界があることに気づきはじめるとともに、自意識 と客観的事実との違いに悩み、様々な葛藤の中で、自らの生き方を模索しはじめる時期 である」。
よって、中学校教育の重要課題はこうなります。
「人間としての生き方を踏まえ、自己を 見つめ、向上を図るなど自己の在り方に関する思考
社会の一員として自立した生活を営む力の育成
法やきまりの意義の理解や公徳心の自覚」
(出典:文科省HP https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1283165.htm)
すなわち、中学生は一人の独立した個性として成長し始める時期であり、その発展を促すことが重要です。留学での異文化交流はその絶好の手段となりえます。中学生のお子さんが人間として大きく飛躍するチャンスです。
2,語学力を高めることができる
一般的に、留学は語学力の向上に役立ちます。少なくとも、留学しない場合と比べれば、語学力が育つといえるでしょう。もっとも、留学期間が短すぎて、語学力が明確には高まらないこともあります。その場合でも、留学生活に刺激をえて、外国語の学習意欲が高まることもあります。
ネイティブとの外国語でのやり取りが楽しいとか、あの外国人たちともっとコミュニケーションをとりたいとか思って、勉強に身が入るようになるでしょう。
この点で、留学先で日本語を使用しないような環境を、あらかじめ準備しておくことが重要です。ホームステイや語学学校の選択などが重要となってきます。
3,国際的な人脈をつくるチャンス
留学先での学校生活などを通して、外国人の友人をつくることになります。学校以外にもボランティア活動などにも参加すれば、年齢の離れた友人もできるでしょう。
帰国後も、彼らとSNSなどでのやり取りを維持することで、外国人との友人関係をその後も継続させることができます。平均的な日本人とは異なる視点をもつ友人ができるのです。中学時代からの友人ですので、仕事の利害関係がなく、本音で話し合える友人です。
この国際的なつながりが将来のキャリアに影響を与えることもあるでしょう。就職先を国内に絞らず、国際的な活躍を志向する可能性もあります。海外の友人はその引き金の一つになりえます。
4,その後のキャリア形成において有利な実績になる
今日の世界はグローバル化が進み、異文化理解が求められています。大学などの教育現場でも、ビジネス・シーンでも、国際的に活躍できる人材が求められています。そのため、海外留学の経験をこれまでの実績の一つとしてアピールすることができます。もちろん、語学力も同様です。
たとえば、教育であれば、奨学金の獲得やAO入試などのさいに、実績があればあるほど有利になります。中学生の留学はまだまだ経験者が少ないため、ほかの学生にはあまりみられない実績として有利です。
実績は他の実績を引き寄せる
ここで、知っておくべきことがあります。実績は他の新たな実績を得る手段となることです。中学での留学は1つの実績です。このような実績は、たとえば奨学金獲得の手段となります。奨学金Aを獲得できたとしましょう。あなた(のお子さん)が高校生の時に奨学金Bに応募する際に、中学の留学と奨学金Aが実績として役立ちます。
さらに、大学に進んで奨学金Cに応募する際に、中学の留学と奨学金A・Bが実績として役立ちます。このように、実績は他の実績をうみます。早いうちに実績をもっていると、実績は雪だるま式に増えていきやすいのです。そのため、中学という早い時期に実績をつくるほうが望ましいといえます。
他方で、職業を決める際にも、語学力や海外留学の経験はプラスに働く可能性があります。日本は他の先進国よりも賃金が低いことが多いため、生涯年収を引き上げたいならば外国での就職のほうがよいでしょう
留学のメリットについては、ほかにもいろいろ挙げることができます。ネット上でも、探そうとすれば簡単に調べられます。そのため、ここでは次の点だけに絞って紹介したいと思います。
実証的な研究において、留学が日本の中学生にとってどのような影響をもつと考えられているのか。大学などの研究者もまた、グローバル化などを背景に、留学の効果には関心を抱いています。
では、研究ではどのように論じられているのでしょうか。いいかえれば、中学留学の効果について、どのようなことが科学的に正しいものとして確かめられているのでしょうか。
ここでは、次の論文に着目して、現状考えられていることを紹介しましょう。中学留学を考える材料にしてください。なお、ここでは短期留学た対象になっています。
参考文献:平井華代・阿部 恵・尾中夏美(2019)「中学時代の海外研修体験が持つその後の人生へのインパクト」『国際教育』 ( 25 ) 50 – 62
短期留学が日本の留学生にたいして、留学からの「帰国直後」に与えた影響
→次の点で、プラスの効果が指摘されています。
・新たなチャレンジへの前向きな姿勢が形成されたこと
・自信や積極性が増えたこと
・外国語を学習しようとする意欲が高まったこと
・海外や外国人への関心が高まったこと
おそらく、みなさんは海外留学の影響がその後も長く続くのかどうかを知りたいでしょう。留学直後はやる気があがるなど効果がでたとしても、高校生になったら効果がなくなったとしたら、残念です。
論文では、中学留学の数年後の効果や影響力を調べています。ちょうど大学生あたりまでの効果です。中学留学の効果は学生たちにどのようなインパクトをもちつづけたのでしょうか。
対象となる学生たちは中学の時にアメリカやカナダ、オーストラリア、中国などに短期留学に行きました。中学留学は次のような点で、彼らに肯定的なインパクトをもったと指摘されています。
短期留学が日本の留学生にたいして与えた中期的なインパクト
1,異文化・多様性への気づきと関心
→日本とは異なる文化の中で生活することで、学生たちは異文化や世界の多様性への認識が深まりました。たとえば、ホストファミリーの家に靴のまま入ったことが驚きだったり。異文化がとても新鮮で、それを知るのがとても楽しいと感じたようです。
2,価値観の変容
→これまでの日本生活で知らず知らずのうちに築かれた自分の価値観。海外留学によって、その価値観や常識を見つめ直し、その限界に気づき、視野が広がり、価値観が揺さぶられていく。
たとえば、学校での生徒たちの授業参加のあり方に刺激を受けたり。日本のニュースなどがつくりあげているその国のイメージと実態の違いに気づき、日本での情報を批判的にとらえるようになったり。留学先の生徒のふるまいをみて、日本人の型にはまった生き方に気づくようになったり。
3,積極性・行動力
多くの学生がこれまでよりも積極的に行動するようになったと報告されています。それは学内でも学外でもそうです。
外国に住むと、日本人は外国人に空気で察してもらうことができなくなります。留学生はそのような経験をします。はっきり言わないと、正確に伝わらない。そのような経験により、自分からちゃんと行動しようと思うようになるケースもあります。
ほかにも、中学留学の後に、高校や大学でも同様に短期留学にチャレンジするケースもあります。中学留学を意義深いものだと感じたり、積極的に海外にでてもっと成長したいと考えるようになったりしたためです。
中学留学にいっていなければ、そう思わなかっただろうとも考えているようです。中学留学が将来の国際的なビジョンを切り拓いた実例です。
4,できなかった自分と向き合って成長すること
海外留学したことのある方なら、ほとんどが経験したことがあるのではないでしょうか。自分の外国語の能力が不十分であるせいで、言いたいことが言えない、伝わらない。
なさけない、不甲斐ない自分と向き合う。そこから、語学力のさらなる向上を目指すようになる。留学した学生たちは、次こそはしっかり伝えたいと思い、語学力の研鑽に向かっていきます。これは留学からの帰国直後だけでなく、少なくとも大学に至るまで続きます。そういう例が確認されました。
5,コミュニケーション能力の向上
他方で、外国人とのやり取りは英語などの言語だけでなく、身振り・手振りなども使います。これはだめなことではなく、コミュニケーション能力を高めているといえます。
そもそも、世界の言語は100以上あります。それら全てに精通するのは非現実的です。言葉が通じない相手とのコミュニケーションを図るなら、身振り手振りなども積極的に利用します。
しっかりと意思疎通するために様々な手段を使う。これは海外でのサバイバルで求められることです。言語および非言語コミュニケーションの能力が留学では高められます。
6,国際志向の深まり
中学留学の結果、多くの学生たちはまた留学したいと考え、応募するようになる。そのような例が高校や大学の段階でみられました。実際に留学に行った学生は半数以上いました。費用などの原因で行けなかった学生も、海外への関心を維持し、情報収集を続けていました。
この国際志向は彼らの進路選択にも影響を与えています。国際的な仕事をしたいという意欲をかきたて、突き動かしているのです。たとえば、海外の研究所における研究職、日本語教師、海外駐在員などです。
大学や学部、あるいは就職先の選択でも、学生たちは国際志向で決めている面がありました。たとえば、在学中に留学できそうかどうか、海外で企業研修がある会社かどうか、海外駐在できそうかどうかなどが重要な選択基準となっています。
以上のように、中学での留学は学生の様々な成長や発展を短期的にもたらすだけでなく、その後の人生設計にもインパクトをもつことが示唆されています。これらの学生の中には、中学留学の経験がなければ、国際志向のキャリア形成を考えなかっただろうと語っている人もいます。
もっとも、すべての学生が中学留学でこうなるわけではありません。それでも、日本人学生でこのような実例が確かめられたのは示唆的です。短期留学でもこうですので、長期留学ならなおさらでしょう。
再び、留学費用の問題へ
もっとも、やはり大きな問題になるのは、その高い費用でしょう。これにたいし、自治体などが中学生の留学を支援しています。
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